なんでもないと思いたい。

わたしのこと、日々思うこと。

キンモクセイ

ドラッグストアに入ってすぐ目に入る場所に、新商品が並べられている。

透明感のあるオレンジ色がいくつも並んでいてとても華やかにみえる。どれもキンモクセイの香りの商品だ。

この土地にきて数年、キンモクセイを見たことがない。引っ越してくる前は、大きい家の軒先なんかにキンモクセイが植えられているのを見かけたり、姿は見えなくてもどこからともなくふんわりとキンモクセイの香りがするのが当たり前だった。

可愛いパッケージの商品の前に香りのサンプルが置いてある。蓋を開けて顔の近くに持っていくと、鼻の奥に引っかかるような少々きつめの香りが流れ込んでくる。キンモクセイの香りってこんなだったか。記憶のどこを探してもキンモクセイの本当の香りを見つけられない。

住む場所が変わるとはこういうことか。これまでにも、というよりほぼ毎日のように土地の違いを思い知らされ、それになんとも言いようのない不快感を感じてはいるものの、どうしようもないと受け入れて生活をしている。

土の香りも植物の香りも、ここではなかなか感じられない。

あと数年の辛抱で済むのかはわからないが、せめて微かでも自然の香りを身近に感じられる生活ができればいいと、人工物の香りに思いを寄せる。

このオレンジ色のパッケージももう数日すればなくなってしまうかもしれない。何かひとつ買って帰ろうかと悩んで、もう一度香りのサンプルを開ける。やっぱりいいか。わたしが欲しいのはこれじゃないんだな、と無駄な出費を抑えた自分を褒めてやる。