列車を使って観光地へ向かうとき、たいていお昼ご飯どきに目的地へ到着するようにしている。
地元の美味しい物を食べたいと思うのは皆同じなようで、駅周辺のお店は満席ですんなり食事にありつけることが少ない。
そんなときは少し駅から離れたお店を探す。駅前の商店を抜け、横道にそれて海側へと歩く。古い住宅地を抜けて少し広い通りに出ると、駅周辺ほどではないが、ぽつぽつと飲食店と思われる看板が現れる。
二階建ての建物の脇の少し奥まったところに、2階入り口への階段をみつけた。見上げるとその先には暖簾のかかった引き戸みえる。店の中の様子が伺えないために少々入りにくさはあるものの、これまでの経験上間違いなくお手頃で美味しい食事ができる店だと確信する。
がらがらと引き戸を開けると、腰が少し曲がった女性がいらっしゃいと座敷へ案内してくれた。座敷のあるお店は大好きだ。
メニューを広げると海の街らしい魚の刺身やら煮付けの定食が並ぶ。煮付けの写真はどう考えても二人前はありそうな大きさで一人で食べ切る自信をがなく断念。刺身ならいけるか、と注文してしばらく待っている間に向こう側に座るお客さんのテーブルをちらりと見る。お盆に乗った器に盛られる量をどう考えても一人前とは思えず、自分の注文した定食がくるのを怖々と待つことにした。
都心で食べれば二、三人前はありそうな刺身の盛り合わせが目の前に置かれる。大きな一切れを口に運ぶ。
ここまで来た甲斐があったとゆっくりと噛み締める。新鮮で美味しいお魚をお安くいただく。日本人で良かった、としみじみ思う。
お腹を満たしてまた暖簾をくぐる。
食事をしてあったまった身体には少しひんやりと感じる海からの風が、旅の幸先を案じてくれているようにも思える。